Character 03

買い物

 市場組合の会合は、夕方にはだいたい終わる。  帳簿の確認やら、来月の露店の配置やら、ひと通りの議題は片づいていた。  組合長が眼鏡を外す。  「……まあ、こんなところか」  椅子がいくつか動く。  帰り支度の空気になる。  そのとき、手芸屋の女が言った。  「そういえば」  向かいの布屋を見る。  「この前、来たよ」  「誰が」  女は少し声を落とす。  「隊長と女神中尉」  机のまわりが少し静かになる。  魚屋が言う。  「市場に?」  「うん」  「何買った」  手芸屋は指を折る。  「糸」  「糸」  「それから刺繍枠」  誰かが笑う。  「刺繍?」  「あと毛糸」  肉屋が言う。  「手芸か」  「そう」  手芸屋は頷く。  「色見てさ」  少し手を動かす。  「触って選んでた」  パン屋の主人が言う。  「陶器屋も見てたぞ」  「何買った」  「いや」  パン屋は肩をすくめる。  「マグカップ見て」  「見て?」  「触って」  少し間。  「置いてった」  机のまわりで小さく笑いが起きる。  魚屋が言う。  「隊長は?」  手芸屋が答える。  「横に立ってた」  「買わないのか」  「見てるだけ」  布屋が笑う。  「付き添いか」  「そんな感じ」  しばらく笑いが残った。  やがて組合長が書類をまとめる。  「まあ」  紙を揃えながら言う。  「市場に来るくらいはいいだろう」  誰かが言う。  「首都だしな」  椅子が動く。  人々が立ち上がる。  魚屋が最後に言った。  「でも」  皆が顔を向ける。  「隊長、ずっと女神中尉見てたぞ」  一瞬、静かになる。  パン屋が笑った。  「そりゃ見るだろ」  布屋が頷く。  「見るなって方が無理だ」  組合長が扉を開ける。  「じゃあ解散だ」  外はもう夜だった。  市場の灯りが、静かに並んでいる。
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