Character 04

銀行の台帳

 王立銀行の奥の執務室で、銀行員は封筒を開けた。  住所変更の届出だった。  差出人の名前を見る。  エレイン・アルディア。  銀行員は紙を一度机に置いた。  それから、もう一度見る。  住所欄。  ヴァレン邸。  銀行員は棚から台帳を取り出した。  ページをめくる。  ヴァレン。  ランス・ヴァレン。  同じ住所が、そこに載っている。  銀行員は小さく頷いた。  驚くことではない。  住所を台帳に書き込む。  ペン先は静かに動く。  少しして、銀行員はアルディア中尉の口座を開いた。  数字が並んでいる。  残高。  投資。  保管資産。  ――溜まる。  銀行員は内心で思う。  理由は分かっている。  アルディア家は貴族家系だ。  相続資産がある。  軍の給与も高い。  それでも支出は少ない。  書籍。  雑貨。  市場の支払い。  それくらいだ。  ただし、ときどき。  銀行員は送金履歴のページを開く。  孤児院。  療養施設。  戦災遺児の基金。  匿名寄付。  金額を見る。  ――少し、ではない。  だが書面はいつも簡潔だ。  「この金額を以下へ送金してください」  それだけ。  寄付者名は出さないよう指定されている。  銀行員は台帳を閉じる。  次に、ヴァレン家の台帳を開く。  こちらは整然としている。  執事からの連絡。  屋敷の維持費。  資産の管理。  銀行員は、ときどきヴァレン邸の執事と書簡を交わす。  資産管理の確認。  それだけだ。  銀行員はふたつの台帳を机に並べた。  ヴァレン家の資産は、整然と管理されている。  アルディア中尉の資産は、静かに積もる。  そして、ときどき流れる。  銀行員はペンを置いた。  住所変更の書類を封筒に戻す。  アルディア中尉の住所は、いまヴァレン邸だ。  銀行員はそれを台帳に記録する。  銀行の仕事は、記録することだ。  それだけだった。
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