Character 05

礼服

 礼装訓練の日、訓練室は少しざわついていた。  濃紺の礼服。  肩にかかるマント。  軍帽。  手袋。  凪刀。  新人の魔術師たちは、鏡の前でそれぞれ苦戦している。  「……歩きづらい」  誰かが言う。  「マント踏む」  「踏むなって言われても踏むんだよ」  凪刀の柄が布に当たる。  「ほら、また引っかかった」  教官が静かに言う。  「足を出す前に布を見る」  「見る余裕ないです」  誰かが肩を落とす。  「なんでこんな服で歩くんですか……」  教官は答えない。  そのとき、扉が開いた。  エレインが入ってくる。  濃紺の礼服。  魔術師隊のマントが肩から落ちている。  新人の何人かが顔を上げる。  「……あれ」  「もう着てる」  エレインは特に気にした様子もなく、鏡の前に立つ。  教官が言う。  「歩いてみろ」  エレインは頷く。  一歩出る。  布が静かに流れる。  マントが背中に沿う。  凪刀も揺れて、すぐ収まる。  もう一歩。  歩幅はいつもと同じ。  布は足に触れない。  訓練室が少し静かになる。  エレインはそのまま歩き、止まる。  マントが肩に落ちる。  それだけだった。  教官が言う。  「問題ない」  エレインは頷く。  鏡を一度見て、少しだけ袖を直す。  それから壁際に下がった。  新人たちはまだマントを踏んでいる。  誰かが小声で言う。  「……どうやったんですか」  エレインは少し考える。  それから言う。  「普通に」  誰かが呻いた。  「普通ってなんだ……」  しばらくして、別の隊員がぼそりと言った。  「……まあ」  肩をすくめる。  「貴族なんだろ」  訓練室の空気が、なんとなく納得した。
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