Character 07
執事の仕事
副長昇進の知らせが届いたのは、雨の朝だった。
封筒の差出人は、ヴァレン大尉――いや、もうその呼び方ではない。
執事は封を切る。
紙は短い。
> 首都で家が必要になる。
> 良い場所があれば見ておいてほしい。
> 必要なら整えてくれ。
> ――L.V.
それだけだった。
翌週、執事は首都の地図を広げた。
防衛本部。
魔術師隊施設。
参謀本部。
それらを中心に、円を引く。
徒歩での距離、車での距離、衛兵区画。
候補は三つ。
どれも高官の邸宅が並ぶ区画だった。
三番目の家を見たとき、執事は門の前で立ち止まった。
石造りの古い邸宅だった。
庭は荒れていない。
窓も割れていない。
持ち主が亡くなり、売りに出たばかりだと聞いた。
軍施設から遠すぎず、
騒がしすぎない。
執事は門を押した。
蝶番が静かに鳴る。
契約は二週間後に整った。
屋敷は広すぎず、
警備にも都合がよい。
執事は工房を呼び、
家具を整えた。
主の部屋は二階の奥に決めた。
机を置く。
本棚を置く。
窓から軍施設の塔が見えた。
完成の報告を書いた。
返事は三行だった。
> 確認した。
> 問題ない。
> 任せる。
それから、主は来なかった。
***
年がひとつ過ぎた。
執事は毎朝門を開けた。
庭を歩き、
窓を開け、
机を拭いた。
夕方には灯りを一つ消した。
屋敷は整っていた。
主は戻らなかった。
***
数年が過ぎた。
戦争が終わった。
国王表彰の知らせを、執事は新聞で知った。
その夜も、屋敷は静かだった。
手紙が届いたのは、冬の午後だった。
見慣れた筆跡。
封を切る。
紙は一枚。
> 準備を頼む。
> 必要な範囲で整えてくれ。
> ――L.V.
執事はしばらく紙を見ていた。
机の上に、もう一枚の書類がある。
軍務課の文書だった。
そこに、名前が記されていた。
エレイン・アルディア。
その下に、簡潔な一行。
> 共鳴番運用による同居措置を実施する。
執事は手紙を畳む。
椅子から立つ。
廊下を歩く。
止めていた客室の鍵を外した。
窓を開ける。
空気が入る。
静かだった屋敷に、
風が通った。