Character 08
塩レモンソーダ
市場のカフェ。
昼の光が石畳に落ち、通りのざわめきがゆるやかに流れていた。
テーブルの上には、三つのグラス。
エレインの前にあるのは、塩レモンソーダだった。
透明な水の中に、薄いレモンの輪が浮いている。
底から細い泡が立ち上り、果皮の縁に触れてはほどけていく。
エレインはグラスを少し近づけた。
しばらく見ている。
泡がレモンの内側をすべり、ゆっくり上へ昇る。
ときどき、小さくはじける。
彼女は指先でグラスをほんの少し回した。
レモンがゆるく動く。
泡の筋が変わる。
「きれいです」
エレインはグラスを持ち上げた。
窓から差す光にかざす。
空を背景にすると、泡はさらに細く見えた。
エレインは少しだけ角度を変える。
泡の列が揺れる。
それを、しばらく眺めている。
隣でランスがグラスを見る。
一度だけ。
「飲まないのか」
エレインは首を少し振る。
「炭酸は、少し刺激が強いので」
それでもグラスは手放さない。
レモンの縁から泡がほどけていくのを、じっと見ている。
カーティスは向かいの席で腕を組んだ。
しばらく三人とも何も言わない。
通りの荷車が通り過ぎる。
遠くで店主の声。
エレインはまだ泡を見ている。
ランスは通りを一度確認する。
出入口。
人の流れ。
問題なし。
再び視線を戻す。
エレインはまだ泡を見ている。
カーティスは心の中で思った。
――ランスが、炭酸の泡を三分ほど見守っている。
珍しい光景だ。
会議室の参謀連中に見せてやりたい。
「最高位魔術師、泡の観察任務中」
しばらくしてエレインが言った。
「そろそろ飲めそうです」
グラスを持ち上げる。
一口。
ほんの少し。
エレインは少し考える。
それから言った。
「……まだ少し元気ですね」
ランスが頷く。
「そうか」
それで会話は終わった。
カーティスはグラスの残りを一気に飲む。
そして心の中で呟いた。
――レモンソーダを観察してから飲む人間は、初めて見た。