Character 09
宿舎
魔術師隊宿舎。
陸軍本部の建物とは、少し離れた場所に建っている。
石造りの三階建て。
外から見れば特に変わったところはない。
ただ、中に入ると少し違った。
廊下が静かだった。
音がないわけではない。
靴音は響くし、遠くで扉が閉まる音もする。
しかし、どこか吸い込まれるような静けさだった。
陸軍の将校は廊下を歩きながら、わずかに眉を動かす。
兵舎とは違う。
兵舎なら、もっと生活の音がある。
誰かの笑い声、椅子の軋み、書類のやりとり。
ここにはそれがない。
代わりに、すべての扉が閉まっている。
廊下には人影も少ない。
将校は一つの扉の前で足を止めた。
「……静かだな」
後ろを歩いていた魔術師隊の隊員が頷く。
「各室で結界を張っています」
「結界?」
「魔力干渉を避けるためです」
将校はもう一度廊下を見渡した。
なるほど。
理由が分かると、この静けさも納得がいく。
歩きながら、もう一つ気づく。
階段を上がる。
二階。
さらに静かになる。
将校は小さく言った。
「……上ほど静かだな」
隊員は少し考えてから答える。
「感受の強い者が上階に多いので」
「なるほど」
合理的だ。
将校は廊下を進む。
すると、二つの扉の前で隊員が止まった。
「こちらです」
向かい合った二つの部屋。
将校は銘板を見た。
左。
ヴァレン。
右。
アルディア。
「……向かいか」
隊員は頷く。
「はい」
将校は少しだけ見ていた。
廊下は静かだった。
この建物のどこよりも。
それから短く言う。
「……なるほど」
それ以上は言わなかった。