Character 11
国民食
厨房の窓が少しだけ開いている。
午後の光が、石の作業台を白く照らしていた。
台の上に、ボウル。
その中で、生地がゆっくり揺れている。
水分の多い生地だった。
触れると、少しだけ遅れて戻る。
エレインは腕まくりをして、じっと見ている。
指先で、そっと押す。
ぷる、と揺れる。
少し考える。
それから言った。
「……いい感じです」
隣でコックが腕を組んでいる。
「まだ早いです」
エレインは生地を見る。
また少し触る。
伸びる。
戻る。
「声は、もう落ち着いています」
コックは少し眉を動かした。
「声」
エレインは頷く。
「はい」
生地を少し持ち上げる。
「生地は、話します」
ランスが厨房の入口に立っている。
腕を組んでいる。
何も言わない。
エレインは生地を折りたたむ。
水を含んだ生地が静かに重なる。
「……パンはカルナリアの国民食です」
真剣な声だった。
コックは少しだけ笑う。
「知っています」
エレインはまた生地を見る。
「はい」
ランスはそれを見ている。
生地がゆっくり広がる。
コックが言う。
「では、そろそろ焼きます」
エレインは頷く。
オーブンの扉が閉まる。
しばらくして、香りが広がる。
小麦の匂い。
少し甘い。
焼き上がったパンが台に置かれる。
外は薄く色づき、中は柔らかい。
エレインは断面を見ている。
小さな気泡が、きれいに並んでいる。
「きれいです」
パンが皿に置かれる。
隣に
フレッシュチーズ
発酵野菜
ランスが席につく。
エレインはパンを少しちぎる。
一口。
少しの間。
それから言う。
「……いいですね」
それから、ランスの方を見る。
「どうですか?」
ランスはもう一口食べる。
少し間がある。
「問題ない」
エレインは首を少し傾ける。
「いい、という意味ですか?」
ランスは皿を見る。
それから言った。
「食べている」
エレインは少し考えた。
それから頷く。
「そうですね」
もう一口食べる。
コックは腕を組んだまま、それを見ている。
ランスは二切れ目を取る。
そして何も言わずに食べ続けた。