Character 13
接触
夜半、宿舎は完全に静まっていた。
灯りは机の上の一灯だけ。影が硬く、輪郭を保っている。
ソファに、エレインがいる。
眠っている。
背は丸く、呼吸は浅く一定だ。
ランスは足を止める。
状況を確認する。
位置。
姿勢。
室温。
窓は閉じているが、夜気はわずかに入っている。
このままでは、冷える。
視線を落とす。
首の角度がよくない。
背の支点も不安定だ。
長くは保たない。
――このままにするべきではない。
判断はすぐに出る。
だが、その次で止まる。
動かすか。
ランスはソファの横へ歩く。
距離を測る。
触れなければ、姿勢は変えられない。
触れれば、影響が出る。
エレインは眠っている。
ランスは一度、手袋に視線を落とす。
――判断は変わらない。
このままでは、体に負荷が残る。
短時間なら問題はないが、夜通しは不適切だ。
ランスは一度だけ呼吸を整える。
手を伸ばす。
止まる。
位置を修正する。
肩か。
腕か。
背か。
最小の接触で、最大の移動を行う必要がある。
計算する。
腕を軽く持ち上げ、重心を崩さず起こす。
そのまま支点を移し、抱え上げる。
時間は短く。
接触は最小。
それで足りる。
ランスは決める。
手を置く。
布越しに、肩へ。
軽い。
抵抗はない。
もう一方の手を背へ回す。
持ち上げる。
――一瞬。
空気がわずかに変わる。
だが、崩れない。
ランスは動きを止めない。
そのままベッドへ運ぶ。
距離は短い。
数歩。
静かに下ろす。
姿勢を整える。
頭の位置。
首の角度。
呼吸の深さ。
問題ない。
手を離す。
そこで初めて、ランスは一歩引く。
室内の密度が戻る。
エレインは起きない。
ただ、呼吸がわずかに深くなる。
ランスはそれを確認する。
数秒。
異常はない。
毛布を取り、上からかける。
接触はない。
それで十分だ。
ランスはソファへ視線を移す。
さきほどまでエレインがいた場所。
何も残っていない。
均一だ。
問題はない。
ランスはそのまま立つ。
灯りの位置を少しだけ調整する。
強すぎないように。影が安定するように。
それから椅子に座る。
書類には手をつけない。
視線はベッドへ向いている。
監視ではない。
確認でもない。
ただ、位置を把握している。
夜はそのまま続く。
何も起きない。
それでいい。