Character 15
焼き菓子
魔術師隊の休憩室。
午後の時間帯。
人の数は多くない。
机の上に、簡素な皿。
焼き菓子がいくつか置かれている。
エレインがひとつ取る。
口に入れる。
噛む。
小さく、うなずく。
もう一度。
同じように、うなずく。
数秒。
そのまま、もうひとつ取る。
隣で見ていた隊員が、小さく息を吐く。
「……あれ」
誰にともなく。
「分かりやすいよな」
別の隊員が肩を揺らす。
「だな」
「うまいと、ああなる」
視線は動かさないまま、会話だけが落ちる。
エレインは気づいていない。
ただ、同じ動作を繰り返している。
うなずく。
噛む。
止まらない。
「最初はな」
少し年長の隊員が、低く言う。
「何考えてるか分からんやつだと思ってた」
間。
「今も分からんけどな」
短い笑い。
「でも」
言葉が続く。
「見てりゃ分かる」
エレインが、また小さくうなずく。
「……ああ」
誰かが頷く。
「分かる分かる」
「今のは、完全にうまいやつだ」
空気が、少しだけ緩む。
その奥。
ランスが同じ皿に手を伸ばす。
ひとつ取る。
口に入れる。
変化はない。
表情も動かない。
数秒。
そのまま、もうひとつ取る。
隊員のひとりが、目だけを動かす。
「……あっちは分かりにくいな」
「いつも通りだ」
即答。
だが、少しだけ間が空く。
「いや」
別の声。
「中尉が作ったやつのときだけ、分かる」
視線は前のまま。
「減り方が違う」
短い沈黙。
全員が納得する。
「……ああ」
誰かが小さく言う。
その間も、エレインはうなずいている。
ランスは変わらない。
ただ、同じ皿から取る頻度だけが、わずかに違う。
「結局」
誰かが、低くまとめる。
「分かりにくいのと、分かりやすいのが並んでるだけだな」
小さな笑いが落ちる。
エレインは何も知らない。
ただ、目の前のものを受け取っている。
それだけだった。