Character 19
ヴァレン
王宮北棟・第三回廊。
式典警備中。
首都魔術師隊の隊員たちは、持ち場付近で静かに待機していた。
王宮内は声が響く。
自然と全員、普段より声量が落ちる。
「……緊張するな」
若い隊員が小さく呟いた。
別の隊員が背筋を崩さないまま、低く返した。
「王宮だからな」
そのとき。
回廊の向こう側で、近衛が一斉に姿勢を正した。
音が減る。
何かが来る。
隊員たちも自然に視線を向ける。
まず現れたのは、濃茶の礼装だった。
装飾は少ない。
だが線が異様に整っている。
歩幅。
姿勢。
沈黙。
空気が静かに揃っていく。
若い隊員が小さく息を呑んだ。
「……誰だ?」
その人物は回廊中央で立ち止まる。
近衛が静かに一礼した。
「ヴァレン殿」
低く落ち着いた声。
隊員たちの空気が少し変わる。
ヴァレン。
その姓へ反応する。
そしてほぼ同時。
回廊の反対側から、別の足音が近づいてきた。
濃紺の軍靴。
静かな歩調。
首都魔術師隊長、ランス・ヴァレン。
隊員たちは反射的に背筋を伸ばした。
ランスは回廊中央で止まる。
そして、濃茶の男へ静かに一礼した。
「父上」
低い声。
周囲が止まる。
完全に。
数秒。
誰も喋らない。
ヴァレン父は静かに頷いた。
「警備任務中か」
「はい」
短い。
それだけ。
なのに空気が妙に張る。
近衛すら動きを小さくしていた。
若い隊員が隣へ小声で言う。
「……え?」
返事がない。
隊員はさらに小さく呟く。
「隊長のお父さん?」
別の隊員が無言で頷く。
そのまま全員、前を見たまま固まる。
似ていた。
驚くほど。
立ち姿。
沈黙。
視線。
空気の静まり方。
ただ、少し違う。
父の方は、静かに場を整える。
隊長は、静かなまま張力がある。
だが根が同じだった。
隊員の一人が、思わず漏らす。
「……似てる……」
「いや、なんか……」
隊員は言葉を探す。
「空気が二重に静かなんですけど……」
その瞬間。
ランスとヴァレン父が同時にこちらを向いた。
隊員たちが一斉に黙る。
完全に。
回廊には、王宮の結界音だけが静かに流れていた。