Character 20
別生物
首都軍・西整備区画。
午後。
補給便が到着した直後で、区画内には木箱と金属ケースが積み上がっていた。
整備員たちが搬入作業を進めている。
その中で、ランスは大型結界制御箱を持ち上げていた。
黒い固定金具が軋む。
箱は人の胴ほどもある。
中には結界補助核と導線材が詰まっており、かなり重い。
普通なら二人作業だった。
だがランスは片手で位置をずらし、そのまま台座へ固定する。
周囲の整備員たちは見慣れていた。
「隊長、右あと少しです」
「……そこか」
低い声。
金属音。
固定完了。
その様子を、少し離れた場所からエレインが見ていた。
灰の瞳が、箱とランスをゆっくり往復する。
やがて、小さく首を傾げた。
「……重くないんですか」
周囲が少し静まる。
ランスは固定具から手を離した。
「重い」
「ですが、普通に持っています」
「持てるから持っている」
エレインは数秒考えた。
かなり真面目に考えている。
「人間は訓練すると、そこまで持てるようになるんですね……」
整備員の一人が危うく工具を落としかけた。
隣が無言で肘を入れる。
ランスはしばらく黙っていた。
「中尉は、筋力訓練を避けすぎだ」
「必要最低限はしています」
「最低限以下だ」
エレインは少し考えた。
「ですが、隊長は少し鍛えすぎではないでしょうか」
「軍人だからな」
「結界制御箱を片手で持つ軍人は、あまり一般的ではない気がします」
整備員たちが今度は視線を逸らした。
かなり逸らした。
ランスは小さく息を吐く。
そのとき。
エレインが積み上がっていた資料箱へ手を伸ばした。
紙資料が大量に入っている。
持てなくはない重さだった。
エレインは箱を抱え上げる。
だが次の瞬間。
「……っ」
紙束の端で指先を切った。
箱が少し揺れる。
ランスの視線が落ちた。
白い指先。
薄く開いた皮膚。
赤い線。
沈黙。
エレインは箱を持ったまま、自分の指を見ている。
「切れました」
「見れば分かる」
ランスは箱を受け取った。
片手で。
エレインはその動きを見上げる。
「やはり不思議です」
「何がだ」
「同じ人間なのに、かなり違います」
ランスは資料箱を机へ置いた。
低い音。
「……中尉も十分、人間離れしている」
「そうでしょうか」
「結界反応を三区画先から感知する人間は普通じゃない」
エレインは少し考える。
「ですが、隊長ほど重いものは持てません」
「そこは競わなくていい」
周囲の整備員たちは、黙ったまま作業を続けていた。
誰も口を挟まない。
ただ全員、なんとなく思っていた。
――この二人、本当に別生物だな。