Character 23
水筒
昼休み。
首都魔術師隊の休憩室は、いつも通り静かだった。
窓際の席で、エレインは昼食を取っている。
パン。
スープ。
そして小さな水筒。
蓋を持つ。
きゅ。
回す。
動かない。
エレインは瞬きをした。
もう一度。
きゅ。
きゅ。
動かない。
少しだけ力を入れる。
腕が小さく震えた。
ぷる。
ぷるぷる。
向かいの席の若い魔術師が視線を上げる。
気づいた。
だが視線を戻す。
見ていないふりをした。
しかし気になる。
ぷるぷるしている。
エレインは真剣だった。
もう一度。
きゅ。
ぷるぷる。
きゅ。
ぷるぷる。
蓋は開かない。
周囲の数人も気づき始める。
誰も何も言わない。
だが全員知っている。
中尉はこういう時、自分でやろうとする。
諦めない。
結構長い。
ぷるぷる。
ぷるぷる。
しばらくして。
カーティスが書類を片手に通りかかった。
歩きながら様子を見る。
視線が止まる。
エレイン。
水筒。
ぷるぷる。
状況を理解した。
「中尉」
エレインが顔を上げる。
「開きません」
真面目に言った。
カーティスは小さく目を細める。
「お預かりします」
水筒を受け取る。
軽く回した。
ぱき。
開いた。
エレインは水筒を見る。
次にカーティスを見る。
水筒を見る。
「開きました」
「開きましたね」
カーティスは返した。
エレインは頷く。
「ありがとうございます」
そして何事もなかったようにお茶を飲んだ。
向こうの席で見ていた若い隊員が、小さく息を吐く。
隣の隊員が囁いた。
「何で最後までやろうとするんだろうな」
「中尉ですから」
「説明になってないぞ」
「私もそう思います」
カーティスは肩をわずかに震わせながら、そのまま食堂を後にした。
午後。
執務室。
ランスは報告書から目を上げた。
「中尉が水筒と戦っていました」
カーティスが言う。
沈黙。
ランスは一度だけ目を閉じた。
「勝敗は」
「水筒の勝ちです」
再び沈黙が落ちた。