Fragment 03
国家魔力管理局 年次測定記録
国家魔力管理局、測定室。
厚い結界板で囲まれた部屋の中央に、出力測定器が設置されている。
その前で、監査官が静かに書類を確認していた。
「対象二名。首都魔術師隊所属」
若い測定官が読み上げる。
「最高位魔術師、ランス・ヴァレン。
高位魔術師、エレイン・アルディア」
室内に短い沈黙が落ちる。
監査官はゆっくり頷いた。
「例年どおり、二名同時に記録する」
「……同時に、ですか」
「ええ」
測定官は測定器の封印を確認する。
最新型の出力観測器だ。
去年は三台壊れている。
その前年は二台。
測定官は小さく息を吐いた。
「準備完了です」
扉が開く。
最初に入ってきたのは、背の高い軍服の男だった。
黒い手袋をしたまま、静かに立つ。
ランス・ヴァレン。
その後ろに、同じ軍服の魔術師が続く。
エレイン・アルディア。
監査官が軽く頭を下げた。
「年次測定です。ご協力ありがとうございます」
ランスは短く頷く。
エレインは部屋を見回し、少しだけ首を傾げた。
「また新しい装置ですね」
「ええ」
測定官は答える。
「今回は耐久性を強化しています」
監査官が指示する。
「まず、最高位魔術師から」
ランスが一歩前に出る。
手袋のまま、測定器の中心に手をかざした。
「出力、低段階でお願いします」
「了解」
静かな声。
次の瞬間。
測定器の指標が一気に振り切れた。
警告音。
結界板が軋む。
測定官が慌てて装置を押さえる。
「まだ上げていません!」
ランスが眉をひそめた。
「……これが最低出力だ」
監査官は書類を閉じた。
「測定不能」
測定官が記録を取る。
測定器出力限界超過。
装置保護停止。
短い沈黙。
「……去年と同じですね」
監査官が言う。
「ええ」
測定官が疲れた顔で答える。
「次」
エレインが前に出た。
「普通にやればいいんですか」
「はい」
測定器は予備装置に切り替えられる。
エレインが装置に触れる。
静かな波が広がった。
数値が出始める。
安定した出力。
測定官が頷いた瞬間。
数値が変わった。
次の瞬間、逆方向へ振れる。
測定器の結界が微かに揺れる。
壁の検知器が淡く点灯する。
外の結界網が共鳴した。
測定器の針が止まった。
ゼロ。
次の瞬間。
最大値。
測定官が頭を抱える。
「……またですか」
エレインは少し困った顔をした。
「土地が反応しているみたいです」
監査官は静かに言う。
「測定不能」
記録が書き込まれる。
出力波形不安定。
環境共鳴発生。
再現不能。
しばらく沈黙。
若い測定官が小さく言った。
「……この二人、どうやって登録しているんですか」
監査官は肩をすくめる。
「カルナリアですから」
書類を閉じる。
「毎年こうだ」
そして、最後の行に記録を書き込む。
高危険出力保持者。
登録継続。
窓の外では、首都の結界塔が静かに光っていた。