Fragment 04
監査記録:首都魔術師隊
対象:魔術師隊・中堅隊員
場所:軍施設会議室C
室内は簡素。
机を挟んで、監査団三名と隊員一名。
団長が口火を切る。
「率直な意見を求める。忌憚なく」
隊員は背筋を伸ばす。
「了解しました」
副団長が問う。
「隊長について。率直に」
一瞬、隊員は考える。
「強いです」
「それは承知している」
「……判断が速いです。無駄がない」
団長が続ける。
「怖いか?」
隊員は少し笑う。
「昔は」
副団長が食いつく。
「昔?」
「アカデミー出た直後くらいですかね。
今より、もっと……固かった」
若手が記録する。
「能力が原因か?」
隊員は首を振る。
「いや。顔が」
沈黙。
若手が顔を上げる。
「顔?」
「はい。表情が動かないんで。
怒ってるのか、普通なのか分からなくて」
副団長が確認する。
「今は違うと?」
「今もあまり動きませんけど」
肩をすくめる。
「分かるようになりました」
団長が問う。
「何が」
「間です」
「……間?」
「考えてる間と、怒ってる間は違うんです」
若手が小さく頷く。
副団長が別角度から問う。
「アルディア中尉について」
隊員の目がわずかに柔らぐ。
「中尉は……まあ、あのままです」
「どういう意味だ」
「素です。
仕事中も私生活も、あまり変わらない」
団長が言う。
「共鳴番運用の影響は?」
「運用は運用です」
即答。
「仕事に支障は?」
「ありません」
副団長が少し踏み込む。
「二人の関係が隊の士気に影響することは」
隊員は少し考え、
「逆です」
「逆?」
「安定してると安心します」
若手が問う。
「なぜ」
「揺れないからです」
団長が静かに言う。
「あなた方は、あの二人をどう見ている」
隊員は少し笑う。
「隊長と中尉です」
副団長が視線を細める。
「それだけか?」
隊員は視線を天井に向け、
「……まあ」
一拍置く。
「時間かけすぎだとは思いますけど」
若手が思わず吹き出すのを堪える。
団長は咳払いをする。
「それは公的見解か」
「いえ。隊内雑談です」
副団長が最後に問う。
「不安はないのか」
隊員は迷わず答える。
「ないです」
「理由は」
「揺れない人たちだから」
沈黙。
団長が端末を閉じる。
「以上だ。協力に感謝する」
隊員は立ち上がる。
「こちらこそ」
退出後。
若手が小声で言う。
「崇拝も恐怖もない」
副団長がまとめる。
「機能的信頼だ」
団長は静かに言う。
「そして生活的観測」
窓の外では、訓練が続いている。
要塞級の隊長も、
共鳴者の中尉も、
ただそこにいる。
団長は記録に一文を加える。
当該隊員は、
規格外を“性質”として受容している。
副団長が呟く。
「やはり、変だ」
団長は頷く。
「ええ。
だが、健全だ」
会議室は、必要以上に静かだった。
対象:軍上層部(作戦統括官・総務監)
場所:中央会議室A
長机の中央に、監査団。
向かいに、軍上層部二名。
室内は広い。
窓からは訓練場が遠くに見える。
団長が口を開く。
「今回の監査にご協力いただき、感謝する」
作戦統括官が頷く。
「透明性は必要です」
副団長が本題に入る。
「率直に伺う。
高出力者を、なぜあのように生活圏に置いている」
総務監が答える。
「隔離のほうが危険だからです」
若手が顔を上げる。
「危険?」
作戦統括官が淡々と説明する。
「隔離は象徴化を生む。
象徴化は依存を生む。
依存は制度を弱くする」
団長が言う。
「しかし、暗殺や攪乱のリスクは」
総務監が即答する。
「常時観測しています」
副団長が視線を鋭くする。
「警護は最小限に見える」
作戦統括官は頷く。
「目立たせない方が安定します」
若手が問う。
「能力に依存しすぎている懸念は」
総務監が否定する。
「依存していません」
団長が促す。
「説明を」
作戦統括官が静かに言う。
「依存とは、代替不能であること」
一拍。
「代替不能な構造は作らない」
副団長がわずかに眉を上げる。
「隊長が欠けた場合は?」
総務監が答える。
「即時に補完計画が発動します」
若手が重ねる。
「共鳴者が欠けた場合は?」
作戦統括官は同じ温度で言う。
「同様です」
団長が低く問う。
「あなた方は、あの二人をどう位置づけている」
総務監は迷わない。
「優秀な軍人です」
副団長が踏み込む。
「英雄ではない?」
作戦統括官は首を振る。
「危機時には象徴になります」
「平時は?」
「運用単位です」
沈黙。
団長が別の角度から問う。
「共鳴番制度について」
総務監が答える。
「感情ではなく、安定性の評価です」
若手が問う。
「私的関係が職務に影響する可能性は」
作戦統括官が即答する。
「監視対象です」
「不安はない?」
「現時点ではありません」
団長はしばらく黙る。
「国民は、二人を“お似合い”と見ている」
総務監が小さく笑う。
「健全です」
副団長が問う。
「神格化の再燃は?」
作戦統括官が答える。
「戦争が起これば可能性はあります」
「その場合は」
「冷却します」
団長が静かにまとめる。
「英雄を必要以上に拡大しない」
総務監が頷く。
「制度は人より長く続くべきです」
沈黙。
若手が最後に問う。
「あなた方は、彼らを特別だと思わないのか」
作戦統括官はわずかに目を細める。
「能力は特別です」
一拍。
「ですが、扱いは同じです」
団長は端末を閉じる。
「理解した」
退出後。
副団長が低く言う。
「感情で動いていない」
団長が静かに結論する。
「人を人として扱うことで、英雄を制度に閉じ込めている」
窓の外では、
ランスが隊列の中に立ち、
エレインが外周を歩いている。
どちらも目立たない。
副団長が最後に呟く。
「やはり、変だ」
団長は頷く。
「ええ。
だが、壊れにくい」