Fragment 09

聖堂の流れ

 聖堂へ行く日は、いつもより静かな気持ちになる。  儀礼そのものは簡素だ。  祈りの言葉があり、灯がともされ、  神官が古い式次第を読み上げる。  それだけのことだ。  エレインは広間の後方に立っていた。  高い天井。  石の壁。  淡い灯り。  聖堂は、都市の喧騒から少し離れている。  外に出ると、山から下りてくる風が冷たかった。  石段を降り、聖堂の裏手へ回る。  人はほとんどいない。  参道から外れると、地面は少し湿っていた。  岩の間を、細い水の音が流れている。  エレインは足を止めた。  石壁の下に、小さな水路がある。  古い石で組まれている。  人の背丈ほどの低い壁の隙間から、  水が細く流れ出ていた。  しゃらり、と軽い音。  山からの水だろうか、と一度思う。  だが、流れの向きを見て、少し首を傾けた。  水路は、聖堂の下から伸びている。  石の下をくぐり、ゆるやかな斜面を下って、  盆地の方へ続いている。  エレインはしゃがみ、手を近づけた。  冷たい。  透明な水だった。  しばらくその流れを見ていると、  どこか遠くの川の音と似ている気がした。  都市の中央を流れる川。  橋の下で聞く、水の響き。  ここから、流れているのだろうか。  そんなことをぼんやり考えていると、  「エレイン」  背後から声がした。  振り向く。  ランスが石段の上に立っている。  礼装の外套が、夕方の風にわずかに揺れていた。  「戻る時間だ」  エレインは立ち上がる。  もう一度だけ水路を見る。  水は、何事もないように流れている。  聖堂の下から、静かに。  エレインは小さくうなずき、石段へ戻った。  ランスは何も言わず、彼女が上がってくるのを待っている。  そのまま二人で参道へ出る。  振り返ると、聖堂の壁はいつものように静かで、  水の音もほとんど聞こえなくなっていた。
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