Fragment 13
夏至公開演習
夏の朝は早い。
兵舎の窓から外を見ると、すでに訓練場の旗が風に揺れていた。
今日は公開演習の日だ。
首都の南側にある大演習場に、軍の各部隊が集まる。
歩兵。
騎兵。
砲兵。
装甲隊。
市民も見に来る。
年に一度の軍事行事だからだ。
その前に、街の大通りでパレードがある。
***
昼前。
首都中央通りには人が並んでいた。
旗が並び、楽団が演奏している。
歩兵の列が進む。
整った足音。
騎兵。
砲車。
装甲車。
いつもの順番だ。
兵士たちは慣れている。
だが、列の後ろで少しざわめきが起きた。
「……あれだ」
誰かが言う。
紺色の軍服。
二人だった。
「二人?」
前の兵士が小さく言う。
「魔術師隊」
ああ、と何人かが頷く。
毎年のことだ。
魔術師隊は、建国記念日とこの日だけ表に出る。
それでも全員ではない。
代表だけだ。
背の高い男。
その横に、もう一人。
隊長と副官。
ヴァレン中佐とハーウッド少佐。
歩兵の列の後ろから見ると、二人の歩き方は少し違う。
足並みは揃っている。
だが、歩兵のような硬さがない。
妙に静かだ。
誰かが言う。
「……あれ、練習してないだろ」
隣が笑う。
「そりゃそうだ」
「歩くのが仕事じゃない」
たしかにそうだ。
魔術師隊は、普段ほとんど街に姿を見せない。
結界の観測。
調整。
そういう仕事だ。
列はそのまま通り過ぎた。
市民の拍手が続く。
「……まあ」
前の兵士が言った。
「パレード向きじゃないな」
誰も否定しなかった。
***
午後。
公開演習が始まる。
広い演習場の周囲に、観客席が設けられている。
歩兵機動。
砲兵射撃。
装甲隊の突撃。
歓声が上がる。
軍の演習は、見ていて分かりやすい。
だが、最後に一つ残っている。
魔術師隊の演習だ。
「出るらしいぞ」
誰かが言う。
「二人だけ」
「二人?」
「さっきの」
なるほど、と皆頷く。
演習場の中央に、二人が歩いていく。
ヴァレン中佐とハーウッド少佐。
隊列はない。
ただ二人。
観客席は少しざわつく。
ランスが立ち止まる。
周囲を一度見渡した。
それからカーティスに小さく何か言う。
副官が頷く。
次の瞬間。
空気が変わった。
風が止まったわけではない。
だが、何かが静かになる。
演習場の端にいた兵士が思わず顔を上げる。
空が、わずかに揺れた。
見えない線が引かれるように、空間が区切られていく。
結界だった。
それは静かに広がり、演習場全体を包む。
数秒。
それだけだ。
観客席がどよめく。
誰かが小さく言った。
「……すげえな」
ランスはもう動いていない。
カーティスが結界の位相を調整している。
しばらくして、ランスが軽く頷いた。
演習は終わりだ。
二人はそのまま歩き出す。
拍手が起きる。
さっきより大きい。
兵士たちは顔を見合わせる。
前の兵士が言った。
「……二人で十分だな」
誰も反論しなかった。