Fragment 16

市街事件

 軍施設から街区へ続く通りは、昼下がりでも静かだった。  濃紺の軍服の三人が歩いている。  ランス、エレイン、カーティス。  施設間の移動だった。  車を回すほどの距離でもなく、歩いた方が早い。  街は平常だった。  店の窓。  通りを横切る人。  遠くで信号が変わる。  その時、角の向こうから無線の声が聞こえた。  「――首都警察です、建物から離れてください」  三人は足を止めた。  通りの先で、警察車両が二台停まっている。  人だかりが少し距離を取って広がっていた。  カーティスが小さく息を吐く。  「事件ですね」  ランスは視線だけを向ける。  エレインは建物の二階の窓を見ていた。  窓の内側に、人影が動く。  警察官の一人がこちらに気づき、軽く会釈した。  制服の肩章が、現場指揮であることを示している。  「中佐」  警察官は近づいてくる。  「立てこもりです。拳銃を持っています」  ランスは短くうなずいた。  「人質は」  「一名。店の従業員です」  店は小さな薬局だった。  入口のシャッターは半分下りている。  通りの空気は、緊張しているが、まだ崩れてはいない。  エレインが静かに言った。  「銃ですね」  ランスは窓を見上げたまま答える。  「そうらしい」  警察官が少し困った顔をする。  「本来はこちらの管轄ですが……」  その時、別の車両が止まった。  陸軍の車両だった。  ドアが開き、二人の兵士が降りてくる。  「中佐」  敬礼。  ランスは軽く返す。  警察官が苦笑する。  「……今日は人が集まりますね」  カーティスが小さく笑った。  「偶然です」  二階の窓が突然開いた。  男の怒鳴り声。  「近づくな!」  拳銃が窓の内側で振られる。  人質の影が後ろに見える。  通りの空気が一瞬固まる。  警察の指揮官が言う。  「交渉中ですが、精神状態が不安定です」  ランスは黙っていた。  数秒。  それから言う。  「距離」  警察官が即座に答える。  「十五メートル」  「遮蔽物」  「なし」  エレインが小さく呟く。  「人質は右側です」  ランスが視線だけで確認する。  拳銃が人質の肩越しに揺れている。  カーティスが静かに言う。  「最小でいきますか」  ランスは答えない。  代わりに、ほんのわずかに手を動かした。  指先が空気を押す。  見えないほどの圧。  銃口が、ほんの少しずれる。  次の瞬間。  拳銃が男の手から弾かれて床に落ちた。  同時に。  「突入!」  警察。  「行け!」  陸軍。  入口のシャッターが押し上げられ、  兵士と警察官が同時に中へ入る。  三秒。  四秒。  店内から声。  「確保!」  通りの空気が一気に緩む。  救急隊員が入っていく。  人質が外に出てきた。  少し震えているが、歩いている。  警察の指揮官がランスを見た。  「……今のは」  ランスは言う。  「風だ」  カーティスが小さく咳払いする。  「報告書は書きます」  警察官が笑う。  「助かりました」  エレインは空を見上げていた。  通りの上に、薄い雲が流れている。  何事もなかったように、街はまた動き出していた。
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